クリニック通信

2018.06.29更新

<はじめに>
 おしりのかゆみで悩んでいる方は比較的多く、古くは古代エジプトの記述にもみられ、現代では人口の約5%にみられます。
専門的には肛門掻痒症(こうもんそうようしょう)といい、原因のはっきりしている続発性肛門掻痒症と、明らかな原因が不明な特発性肛門掻痒症に分類されます。性別では男性が女性の4倍で、どの年齢でもみられますが特に40歳代から60歳代に多いと報告されています。
肛門周囲のかゆみということで、医師の診察をためらわれ多くの患者さんはまず市販薬を使い、良くならずに、痒くてたまらずに来院されます。
<原因>
 おしりのかゆみ原因は実に様々で100近くもの要因が報告されています。比較的原因の明らかなものを示します。

 

お尻の手入れ
排便後にお尻を洗いすぎたり、逆に便が残るほど洗っていない場合にも起こります

 

肛門周囲の便による汚染
肛門周囲の皮膚が便に長時間さらされることによっておこる痒みです。便にさらされるといっても自覚のある場合と、無意識にさらされている場合があります。肛門周囲の皮膚は特殊で他の部位の皮膚とは過敏性が異なるようです。約半数の患者さんは下痢が原因で起こりますが稀には便秘の患者さんにもみられます。また約40%の患者さんは少なくとも週に1回は下着の汚染を認めます。
細菌感染の中には溶血連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、コリネバクテリウムなどの菌が原因の場合1年以上痒みが続くこともあります。溶血連鎖球菌による痒みは皮膚の発赤を伴い、小児に多いのが特徴ですが成人にもみられます

 

肛門周囲の感染症

細菌や真菌、寄生虫の感染が原因で起こる痒みです。真菌は皮膚に普通に存在する菌ですが時に悪さをし、お尻のかゆみの原因の15%を占めるとも言われています。特に糖尿病患者さんやステロイド、抗生物質を使用している患者さんに多くみられます。 細菌感染の中には溶血連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、コリネバクテリウムなどの菌が原因の場合1年以上痒みが続くこともあります。溶血連鎖球菌による痒みは皮膚の発赤を伴い、小児に多いのが特徴ですが成人にもみられます。

 

接触性アレルギー性皮膚炎
一言で言うと化学物質によるアレルギー反応です。具体的には皮膚クリーム、石鹸、濡れティッシュ、トイレットペーパー(に含まれる染料)などが原因で起こります。

 

食べ物
カフェイン飲料、アルコール飲料、乳製品、ピーナッツ、香辛料、柑橘類、ぶどう、トマト、チョコレートなどが原因とされています。これらの食品は
肛門括約筋の作用を弱めたり、消化不良により皮膚を刺激する、便を緩くする、排便回数を多くすると言われています。

直腸肛門疾患に伴うもの
痔核、痔瘻、裂肛や過敏性腸症候群に伴うものが知られています。

 

皮膚疾患や新生物

乾癬や肛門ガン、パジェット病、ボーエン病などの肛門の腫瘍が原因でおこるかゆみです。

 

薬剤に起因するもの
ステロイドや抗生物質の使用がかゆみの引き金になることがあります。

 

衣服に起因するもの
化学繊維の下着は蒸れやすいので、肛門の状態を悪化させることがあります。

また、洗剤や柔軟剤の香料が皮膚炎を悪化させることがあります。

 

全身疾患の局所症状や精神的なもの
糖尿病、肝疾患、白血病、リンパ腫、腎不全、鉄欠乏性貧血、甲状腺機能亢進症に合併することが知られています。
また、不安や、精神的ストレスが原因になっていたり、精神疾患に関連しているものもあります。

 

温水便座症候群
特に日本では温水便座の普及による特有の症状が報告されています

それが温水便座症候群です。肛門はもともと適度な油分、湿度に保たれていますが、温水便座を使いすぎ、皮膚の油分が洗い流された結果、皮膚が乾燥しバリア機能が損なわれかゆみを生じます。また皮膚の常在菌まで洗い流され、細菌のバランスが壊れて、有害な細菌の感染症がみられるようになります。

 

<治療>
 原因がはっきりしているときは原因となる疾患の治療をします。肛囲溶連菌性皮膚炎にはペニシリン系やセフェム系の抗菌薬の内服と軟膏を使用します。真菌症には抗真菌薬の軟膏を処方します。
 原因がはっきりしないときはおしりを洗うときには刺激となる石鹸や薬品などは使わず、排便後もトイレットペーパーでこすったり、入浴時にタオルでこすることはやめるように指導します。食物が原因と考えられる場合、最低2週間は摂取を控えるようにします。
非ステロイド性の軟膏を使用したり、かゆみの悪循環を断ち切るためにステロイド外用剤漸減療法を行います。はじめに強めのステロイド軟膏を短期間使い、次に弱めのステロイド軟膏に変更し、リバウンドの防止と副作用の出現を抑えます。夜間のかゆみが強い方には抗アレルギー剤の内服薬を出すこともあります。

 かゆみはいろいろな原因で起こり、その原因に応じて適切な治療が必要です。自己判断せずに早めに専門医の診察を受けましょう。

 


参考文献
1. Ann R Coll Surg Engl. 2008 Sep; 90(6): 457–463.
2. The ASCRS textbook of colon and rectal surgery
3. Clin Colon Rectal Surg. 2016 Mar; 29(1): 38–42.
4. Aust Fam Physician. 2010 Jun;39(6):366-70.
5. Surgery of the anus, rectum & colon



投稿者: 甲斐内科消化器内科クリニック

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